〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

読書日記:著者のことば ドナルド・キーンさん

石川啄木』 (新潮社・2376円)

  • 私が愛蔵する古い文芸誌のひとつに、「石川啄木読本」と銘打つ「文藝(ぶんげい)」臨時増刊号がある。髪をきれいに七三に分けた歌人の肖像を表紙画に用いたそれは、昭和30(1955)年に発行されており、高名な作家や評論家らが文章を寄せている。 その中でひときわ目立つのが、 当時、京大留学生だった若き著者の論文「啄木の日記と藝術」であった。
  • ローマ字日記」に接した著者は、啄木が日々の出来事を記録するだけでなく<自分の 創造力と藝術を日記に注ぎ、日記自体を立派な創作とした>点に着目した。
  • 先行研究書が2000冊はくだらない中、独自色をどう出すか。念頭にあったのは、「啄木は最初の現代日本人」という留学時代に聞いた哲学者、高坂(こうさか)正顕の言葉であった。
  • 啄木は、友に向けた罵詈(ばり)雑言、妻に対する背信行為……己の性情を包み隠さずにつづった。「汚いところ、恥ずかしいところも見せて、自分はこういう人間だと。その意味で、まさに最初の“現代人”なのです」。本書では、著者が「現代的」に感じた詩歌の英訳も載せており、原文とは異なる味わいも堪能できる。<中澤雄大

(2016-03-30 毎日新聞

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