〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

<ゆゑもなく海が見たくて海に来ぬ…>石川啄木


[ナンテン]


〇卓上四季 北海道新聞
 津波の日

  • 石川啄木が、歌稿ノートに書き留めた歌がある。<今日は汝(なんじ)が生まれし日ぞとわが膳の上に載せたる一合の酒>。さて、「今日」とはいつでしょう。なぞなぞをしているわけではないが、かつて啄木の誕生日をめぐって論争があった。
  • 1886年明治19年)2月20日か、前年の10月27日か、それとも別の日か。2月説が有力らしいが、まだくすぶっているそう。誕生日でさえこうなのだから、何かの記念日を決めるとなると一筋縄ではいかない。
  • 国連が11月5日を「世界津波の日」に制定した。東日本大震災後に日本で定めた「津波防災の日」の日付が採用された。なぜ、あれほどの原発事故を伴った3月11日ではなかったのか。被災者からも疑問の声が出ていた。
  • 岩手県では震災後、啄木の歌碑建立が相次いでいると聞く。古里の歌人の思いは、被災者の心のひだに深く染み込むのだろう。<ゆゑもなく海が見たくて海に来ぬこころ傷みてたへがたき日に>。碑文にある歌だ。11月5日よりも記憶の濃い日が、また近づいてきた。

(2016-01-12 北海道新聞

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