〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木日記 当初から書き換えが意図されていた -啄木学会シドニー大会


[ヒメシャジン]


啄木文学 翻訳への視点
 国際学会 豪・シドニーで大会

国際啄木学会の「2015年シドニー大会」は5日、オーストラリアのシドニー大学で開かれた。同学会前会長で、岩手大名誉教授の望月善次大会実行委員長に寄稿を依頼し、海外関係者を中心とした講演や研究発表について報告してもらった。

  • 基調講演

講師を務めたロジャー・パルバース氏は、世界的に著名な作家、劇作家、演出家。
論題は、「明治時代のソウルブラザーズ」。氏が当初示された問題意識「日本にとって必要なのは、石川啄木か、宮澤賢治か」に沿って、啄木、賢治を日本文化と共に分析され、「今後の世界(や日本)にとって、啄木も賢治も共に必要である」という結論を示された。なお、氏はこの大会に合わすべく、啄木短歌199首を素材として、『英語で読む啄木 自己の幻想』(河出書房新社、2015)を発刊してくださった。

  • ミニ講演

P.A.ジョージ氏(インド・ネルー大教授)の論題は、「現代社会における啄木短歌の意義と価値―インド人の観点から見た『一握の砂』」。氏の母語マラヤラン語への『一握の砂』の翻訳体験を踏まえたものであった。
指摘の一つはマラヤラン語への翻訳時に出合った問題点(単複問題・性別・マラヤラン語に存在しない動植物、など)、もう一つは、『一握の砂』中に見られる、全ての人間に普遍的な「近代的人間像」。

  • 研究発表

林水福氏(台湾・南臺科技大教授)は、昨年出版された氏の啄木短歌の翻訳体験を踏まえての発表。結城文氏(歌人、詩人、翻訳家)も「英訳啄木短歌の諸相」とするミニ講演をされ、「翻訳をめぐる論点」は今大会の成果ともなった。

村松善氏(杜陵高奥州校通信制教諭)の演題は「『明治四十一年戊申日誌』と『明治四十一年日誌』の一月二日から一月三日の項の比較考察」。啄木日記の中でも、氏の示された資料によって『明治四十一年戊申日誌』は、当初から書き換えが意図されたことが明らかとなり衝撃的であった。

(2015-09-17 岩手日報
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