ハマナス(浜茄子、浜梨)
夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実はローズヒップとして食用になる。晩夏の季語。
「ハマナス」の名は、浜(海岸の砂地)に生え、果実がナシに似た形をしていることから「ハマナシ」という名が付けられ、それが訛ったものである。(ウィキペディア参照)
啄木日記
「丁未日誌」
明治四十丁未歳日誌
石川啄木
五月五日 ── 青森 ──(陸奥丸)── 函館 ──
五時前目をさましぬ。船はすでに青森をあとにして湾口に進みつつあり。風寒く雨さへ時々降り来れり。海峡に進み入れば、波立ち騒ぎて船客多く酔ひつ。光子もいたく青ざめて幾度となく嘔吐を催しぬ。初めて遠き旅に出でしなれば、その心、母をや慕ふらむと、予はいといとしきを覚えつ。清心丹を飲ませなどす。
予は少しも常に変るところなかりき。舷頭に佇立して海を見る。
偉いなるかな海! 世界開発の初めより、絶間なき万畳の波浪をあげる海原よ、抑々奈何の思ひをか天に向つて訴へむとすらむ。檣をかすむる白鴎の悲鳴は絹を裂く如し。身をめぐるは、荘厳極まりなき白浪の咆哮也、眼界を埋むるは、唯水、唯波。我が頭はおのづから低れたり。
山は動かざれども、海は常に動けり。動かざるは眠の如く、死の如し。しかも海は動けり、常に動けり。これ不断の覚醒なり。不朽の自由なり。
海を見よ、一切の人間よ、皆来つて此海を見よ。我は世界に家なき浪々の逸民なり。今来つて此海を見たり。海の心はこれ、宇宙の寿命を貫く永劫の大威力なり。
噫、誰れか、海を見て、人間の小なるを切実に感ぜざるものあらむや。
我が魂の真の恋人は、唯海のみ、と、我は心に叫びつ。
(つづく)
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