〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

小社会 -高知新聞-

  • 6年前、JR高知駅南側に装いを新たにして設置された「啄木の父 石川一禎終焉(しゅうえん)の地」を示す歌碑。あらためて見ると「穏やかな晩年を過ごし、一九二七年二月二〇日に所長官舎で76歳の生涯を閉じた」とある。
  • 穏やかな晩年を過ごし、というくだりにはっとする。岩手県渋民村(現在は盛岡市)で住職をしていた一禎は、50歳代だった1904年に失職。どん底の生活に陥り、ついに一禎の家出、一家離散に至る惨状は、1907年のことを書いた啄木日記に詳しい。
  • 「父上が居なくなったといふ。貧といふ悪魔が父上を追ひ出したのであらう」(3月5日)。「一家離散とはこれなるべし。昔は、これ唯(ただ)小説のうちにのみあるべき事と思ひしものを…」(5月4日)。
  • 「穏やかな晩年」という表現が妙に気になるのは、そんな保証もない現在の世相と無関係ではなさそうだ。

(2015-02-21 高知新聞

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