〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「2014 啄木学会台湾会議」から

[シリーズ15「石川啄木詩歌研究への射程 」表紙]


「啄木学会台湾会議から」
    望月善次(同学会会長)


(上) 「実践」を視野に緻密 脱境界の詩人、批評家
国際啄木学会の「2014南臺国際会議」は、台南の南臺科技大でこのほど開かれた。テ−マは「台日相互理解としての〈石川啄木〉。
台湾南部に位置する台南市は、人口約190万。南臺科技大の学生数は、約2万人に上る。
10月25日の会議は、「講演」「研究発表」「記念座談会」の三つの柱で構成された。
講演1の太田登氏は「啄木短歌の評釈への試み ―『一握の砂』の〈放たれし女〉をめぐって―」と題し「短歌を評釈することの意味」を明らかにしようとした。
講演2の梁東国氏の演題は「日本の国民国家形成の中における石川啄木」。<反近代の精神>を掲げた啄木は、国境を超えた脱境界の詩人であり批評家であったと結論づけた。
講演3の望月善次は「「啄木「三行書き短歌」再考〜何故『三行書き』が過大評価されたのか〜」と題して発表した。啄木の「三行書き」の意味を過大評価するのは「ひいきの引き倒し」であるというのがその結論。
講演4の池田功氏の演題は「石川啄木詩歌におけるオノマトペの考察」。オノマトペに焦点を当て、従来研究の遅れていた「悲しき玩具」にも言及した。
(2014-11-14 岩手日報


(中) 用語基盤、万葉の系譜 音楽性の解明も課題に
研究発表1の高淑玲氏は「啄木短歌における音楽性についての一試論−主に『一握の砂』をめぐって−」と題して発表。「台湾の短歌活動に見られる啄木の存在」についても言及した。
研究発表2の山田武秋氏の演題は「歌語からみた啄木短歌の傾向―『一握の砂』を中心に―」。啄木の用語を分析し、「万葉集」にもさかのぼり得る歌人であることを分析しようとした。
研究発表3の劉怡臻氏は「王白淵における啄木文学の受容についての一考察―『棘の道』の詩歌を中心に―」のテーマで発表した。「棘の道」66首と啄木詩集「あこがれ」との対比を通してその影響は小さくなかったと指摘した。
記念座談会は、「台日相互理解と文化交流をめぐって」がテーマ。櫻井健治氏・平出洸氏・楊錦昌氏・梁東国氏・徐興慶氏の多様な登壇者に恵まれ、活発な意見交換が行われた。コーディネーターは若林敦氏が務めた。
(2014-11-15 岩手日報


(下) 朗読会で異文化交流 作品の魅力を「再発見」
啄木学会の関連行事として、10月23日「台日文学交流会」が開かれた。
国際啄木学会から4人、高淑玲氏・結城文氏・平出洸氏・望月善次。台湾側の朗読者は、 向陽氏・許悔之氏・席慕蓉氏・陳育虹氏・陳義芝氏の5人。
最後は、会場からの要望もあり、林水福氏が出版されたばかりの「(翻訳)一握の砂」(「悲しき玩具」も収録)からの朗読であった。
(2014-11-18 岩手日報


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◎『石川啄木詩歌研究への射程』出版

国際会議で行われた基調講演、研究発表をシリーズ15「石川啄木詩歌研究への射程 」として出版

  • 石川啄木(1886-1912)の詩歌をはずして日本の近代詩歌史を精密に語ることはできない。それほどに石川啄木の詩歌は、詩歌研究全般にかかわる、多様で豊潤な表現方法や問題意識を内包している。
  • 本書の論考によって、多くの読者が啄木詩歌の発想と表現がもたらす清新な韻文の魅力を味覚するにとどまらず、編者としては詩歌研究そのものの発展が国際日本学の深化に寄与することを、心から期待している。

(2014.10月発行)

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