遊技産業の視点 Weekly View
<植島啓司 宗教人類学者>
何となく、今年はよい事あるごとし
- 長い人生ずっと仕事より遊びを優先にしてきた。遊びというのもそうだけど、みんなと何の役にも立たないことをして一緒に過ごすことを最優先にしてきた。マージャン然(しか)り、パチンコ然り、競馬然り、酒然り。
- 先日、渋谷のMARUZEN&ジュンク堂で乙津理風さんの『詩吟女子』(春秋社)の出版記念イベントに顔を出した。
- 冒頭のほうに石川啄木の「何となく、今年はよい事あるごとし。元日の朝晴れて風無し」が引用されている。好きな句だ。啄木にしてはこういう明るい句は珍しいと思われる方もいるだろうが、もちろんそこには文字どおりには受け取れない事情が隠されている。
- 1912年元旦。啄木はその前年に慢性腹膜炎および肺結核を発症し、校正の仕事をしていた新聞社への出勤も途絶えがち、妻の不倫を疑って恩人と絶交し、家主から退去を命じられる。待望の長男もわずか24日の命だった。
- そんなことを考えながら改めて啄木の句を読むとなんだかグッとくるものがある。
- 年をとって残念なのは「何の役にも立たないことをして一緒に過ごす」相手がいなくなることだろう。