〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「啄木が大正八年まで生きていたら、文学で生活できていたにちがいない」


[ヤブカラシ]


文学と金銭 新たな関係へ

文学と金銭。一見、遠い両者の関係を追いかけて、気がつくと十六年がたっていた。このほど『カネと文学 日本近代文学の経済史』(新潮選書)を上梓して、ようやく肩の荷が下りた。

  • 円本の光と影 未来も映す

実は、この研究の出発点は「読売新聞」の連載記事だった。大正八年(一九一九)十月からはじまった「読書界と出版界」欄は隆盛を迎えた出版ビジネスに注目していた。その中心は文学、特に小説にあり、単行本だけでなく、この年に「改造」をはじめ、総合雑誌の創刊が相次ぎ、コンテンツ確保のために需要過剰の市場が形成され、原稿料は上昇した。作家の広津和郎はそれまで一円の「中央公論」の原稿料が「改造」に対抗して二円に増えたと回想している。作家たちの経済力は格段に向上し、社会的な地位も上昇していく。明治四十五年(一九一二)に肺結核に倒れた石川啄木が大正八年まで生きていたら、望みどおり文学で生活できていたにちがいない。
(2013-08-12 読売新聞>本よみうり堂)