〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

短歌月評:啄木と現代=大辻隆弘

  • 永井祐の第一歌集『日本の中でたのしく暮らす』(ブックパーク)が出た。

  日曜の夕方吉祥寺でおりてそこにいるたくさんの若い人たち

  鼻をすすってライターつけるおいしいなタバコってと思って上を向く

  本屋さんを雨がさらってその前の道にたばこの箱が落ちてる

私はこのような永井の歌を読んで、唐突だが、石川啄木の歌を連想した。

  真白なる大根の根の肥ゆる頃

  うまれて

  やがて死にし児(こ)のあり

  • 啄木が生後間もない長男を失った時の歌である。「うまれて」という淡々とした表現のなかに、悲しみを超えた啄木の呆然(ぼうぜん)とした心情が逆説的に滲(にじ)み出ている。永井のなかにある都会生活者の淡々とした感情表現は、あるいは、遠く啄木あたりにその源流があるのかもしれない。

(2012-06-18 毎日新聞