〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

赤裸々さと煩悶から見える 新たな啄木像


目次
1 絶望の中で自らを鼓舞
2 社会主義への目覚めと模索
3 啄木日記の魅力とは
4 日記作品化への努力
5 国際性を持つ日記の意義


『啄木日記を読む』を読む -  啄木の息管理者

  • 日記を書き出そうとする人は元日などが多い。啄木の場合は乾坤一擲の大勝負をする人生の分かれ道に書き出している。
  • 啄木の日記は10年間に及ぶ内的な喜びや苦しみや社会への憤りなどを、誰の日記よりも正直に克明に記している。
  • 1907年の天皇を賛美した元日の内容から、1908年の社会の不条理の自覚と破壊の感覚を記した元日の内容へと、この一年間に大きな変化がある。一体啄木に何があったのか。

著者は、ひとつひとつの疑問や事柄をたくさんの資料の中から、解き明かしてくれる。


アメリカの日本文学研究者ドナルド・キーンが「明治時代の文学作品中、私が読んだかぎり、私を一番感動させるのは、ほかならぬ石川啄木の日記である」「啄木日記のほとんどすべての文章が、私の心を打つ」「啄木の日記中、最もすぐれた記述を読む時、それは、その日に起こった事件に対する彼の反応が、まだ冷めやらぬうちに書かれたからだろう、という印象を受ける」という啄木評価を引き、著者とともに読者をもギョッとさせてくれる。
木下杢太郎の日記との比較も面白かった。

日記を作品化していく努力については、「創作作品であれば終わりがなければならない」「冒頭に家族が上京を待っているということと対応するように、この家族が実際に上京をすることによってこの物語を終わらせる」として、ストーリー性と、起から結へと見事に構築していく啄木の技量を説いている。
ローマ字日記というと第一に引っ張り出される「赤裸々な性描写」については、自然主義との関わりや江戸時代の艶本との関わりから迫っている。
私の一番の読みどころは、著者の行った韓国での教員体験の章だ。日本文学のゼミで『ローマ字日記』をテキストにした。講義ノートをもとに、著者が学生に与えた課題とそれに対する学生の発表のところは興味深いものだった。


啄木は、「何もしないで日記ばかりつけていた怠け者」だと、井上ひさしさんが評した。その日記の力で、啄木は「国民詩人ではなく国際詩人と言った方が的確だ」と著者に評価されている。
啄木を読むときに、高い位置からその作品を見る力を与えてくれる書である。