〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

『おん身は花の姿にて』山下多恵子 編


『おん身は花の姿にて』
  網野菊アンソロジー

  • 網野 菊 著 山下 多恵子 編
  • 出版社 未知谷  2,520円(2,400円+税)
  • 2011年2月発行

網野菊は、1900年(明治33)生まれの作家。実母が姦通罪で獄に入り離縁され、父の再婚でその後3人の継母を迎える。この四人の母が、作家網野菊を生んだといっても過言ではないだろう。(はじめに 編者より)

  • 第一章 母

四人の母を持った<私>の切なさ。

  • 第二章 若い日

菊をめぐる三人の男性の存在が彼女にもたらしたもの。心の恋人・画家中村研一、夫の相原信作、恩師志賀直哉

  • 第三章 一期一会

ロシアの画家ワルワーラ・ブブノワ、歌舞伎の八世市川団蔵。人との出会いの好さ。


継母と娘の関係は、結婚した相手の母(義理の母)と嫁の関係に似ている。しかし、大人になってから出会う義理の母ではなく、八歳のときにやってきた実母代わりの母となると、もっと厳しいものがありそうだ。
母をめぐる菊の恨みつらみ苦しさ憧れ……が一番心に響いた。
みやこうせいさんのカバー表紙は、黒地に枝垂れ桜が迫り、菊の魂の怨念を思わせる。カバーを外したときの匂い立つ春の色(鶸色とか鶸萌葱色というのか)に立春を感じた。


書名『おん身は花の姿にて』由来
御身は花の姿にて、親子と名のり給ふならば、殊に我が名も顕るべしと、思ひ切りつヽ過すなり。我を怨みと思ふなよ。
  謡曲「景清」より