〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木(藤原竜也)の過剰な自己愛

[島錦(ボタン)]


「ろくでなし啄木」 生きのいい役者の好対決

  • 伸び盛りの中村勘太郎と活躍めざましい藤原竜也。丁々発止と切り結ぶ熱演が見どころ。
  • 前半はトミ(吹石一恵)の視点、後半がテツ(中村勘太郎)の視点で夜の情事が再現され、異なる様相が浮かび上がる。善良そのもののテツが敢然、啄木(藤原竜也)の甘えを突く逆襲がいい。野卑な生活力が爆発するさまをセリフ以上のものにした。対する藤原も過剰な自己愛をみなぎらせ、それが打ち砕かれる屈辱の震えに進境がみられる。
  • 嵐のような夜の後の朝の光。そこにこそ作者の明朗な持ち味があった。この黒い喜劇の試行をへて、作者の美質は強さをまとうだろう。

(2011-01-18 日本経済新聞夕刊)