[見上げれば…]
我を愛する歌
(P.40)
目の前の菓子皿などを
かりかりと噛みてみたくなりぬ
もどかしきかな
よく笑ふ若き男の
死にたらば
すこしはこの世のさびしくもなれ
<ルビ>菓子皿=くわしざら。
(P.41)
何がなしに
息きれるまで駆け出してみたくなりたり
草原などを
あたらしき背広など着て
旅をせむ
しかく今年も思ひ過ぎたる
<ルビ>草原=くさはら。
《つぶやき》
「あたらしき背広など着て」は、迷わず萩原朔太郎にリンクする。
「旅上」 萩原朔太郎
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。