〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木と郁雨 友の恋歌矢ぐるまの花


[表紙]


『啄木と郁雨 友の恋歌矢ぐるまの花』を読む -「啄木の息」管理者

  • 山下多恵子 著 未知谷 出版
  • 2010年9月発行 2,625円(本体2,500円+税)

「と」は「戸」。新しい世界への入り口。そこをあければ、まだ見ぬ世界が開ける。石川啄木と確かに「出会って」いた二人の友、「と」の向こう側にあった、その青春の物語。


『啄木と郁雨』と題する本だが、啄木の生涯を大切に追いかけ、そのまわりに現れる人々に寄り添いそこに織りなす模様を温かく描いている。

副題である「友の恋歌矢ぐるまの花」は、啄木の歌の一部。<と も の こ= o o o o><や ま は な= a a a a >「おおおお ああああ」と続く音の響きに改めて感動した。

宮崎郁雨の歌が紹介されていた。「故郷を追はれし父とわが母と子等となしける長き旅かな」。郁雨も故郷を捨て(故郷に捨てられ)、両親とともに切ない子ども時代を過ごしたことがわかる。郁雨は啄木の妻節子の妹と結婚するが、しっくりいかないまま晩年を迎える。妻が自分にふさわしかったのだとやっと思い始めたころに妻を亡くしてしまう。

啄木が北海道を漂泊し釧路から東京へ脱出したわけ、小説で名を成すことができないとわかり打撃に震える日々、そこに次から次と歌が湧いてくる奇跡の夜、ローマ字日記をローマ字で書く意図、啄木を新しく変えた人はだれ。
謎解きのように読み進む。


写真が豊富。いままであまり見たことのない郁雨の写真や、写真家のみやこうせいさんが著者と同じ温かい目線で撮った写真の数々を楽しんだ。すみずみまで心の届いた色づかい・質感・装幀は、出版社の方々や本を作るのに関わった方々が啄木をめぐるひとびとのなかに含まれていることを感じた。

「実在した人物について書くには、彼について最大限“知る”努力が必要…」、「人間として一人の人物とどう向き合うか…」、「啄木も節子もカツも郁雨も雨情も…、その思いに寄り添うような気持ちで彼らの人生や作品を伝えるべきでしょう」。
「あとがき」に書かれたこのことばに、すっくと立った揺るぎない著者の姿勢を感じる。