〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木 著(P.4〜5)大海にむかひて一人

[ガクアジサイ]


我を愛する歌

(P.4)


   大海にむかひて一人
   七八日
   泣きなむとすと家を出でにき


   いたく錆びしピストル出でぬ
   砂山の
   砂を指もて掘りてありしに


<ルビ>大海=だいかい。七八日=ななやうか。出で=いで。錆びし=さびし。出で=いで。


(P.5)


   ひと夜さに嵐来りて築きたる
   この砂山は
   何の墓ぞも


   砂山の砂に腹這ひ
   初恋の
   いたみを遠くおもひ出づる日


<ルビ>来りて=きたりて。何の=なにの。腹這ひ=はらばひ。