[シロミノコムラサキ]
《作品に登場する啄木》
『約束の冬』上・下
宮本輝 文藝春秋
(下巻 P.140)
「裏切り者ってのは、血判状に名をつらねたやつのなかから出るのよ」
小巻は言って、自分の軽自動車のドアをあけ、
「さあ、これから小樽の街の観光スポットをひととおり案内するわね。まず小樽運河。入ってみたいお店があったら、ここに入ってみたいって遠慮なく言ってね」
と微笑み、石川啄木の歌碑が小樽の花園公園のなかにあるが、観たいかと訊いた。
「歌碑? わざわざ観に行きたいとは思わないわねェ。どんな歌が刻まれてるの?」
「──こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて 死なむと思ふ」
小巻はきっとその歌が好きなのであろうと留美子は思いながら、助手席に乗った。